Northen Lights を追って (3)

滞在最後の夜。
しばらくすると、北の空に薄いアーチがかかり始めた。
かねてから狙っていた撮影ポイントへ急ぎ向かう。
その静かな住宅街の中の1軒の家では、庭にイルミネーションでトナカイとサンタのそりを配置してまるでおとぎの国の雰囲気。
月の昇る前の闇夜に、相変わらずカメラに三脚のねじがはまらない。イライラは極限に達する。
そうこうしているうちに空の光はどんどん強くなってくる。
イルミネーションまで数十メートル移動する時間も惜しく、道路わきから撮影を始める。
西から東から、それぞれ延びてくる光が中央で一つに合体するかと思いきや、そのまま2重のアーチに、と、さらに薄いアーチがもう一層現れたり。また消えたり。

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月が昇る前のせいか、オーロラはひときわくっきりと夜空に絵筆を走らせる。
トナカイの橇はオーロラのアーチを駆け上がる。
時折通る自動車の赤いテールランプとオーロラとの組み合わせは、今しかない貴重なシャッターチャンス。
気温はマイナス40度。
しかし、なんと、信じられないことに、このとき私は暑くてたまらなかった。
息は切れる。
鼓動は高鳴る。
全身が汗だくになってくるのを感じる。
右手にはカメラを握り締め、左手にはカメラの向きを固定するレバー。
自分の息ですぐにファインダーが凍るので、指でこすりとる。
液晶表示は半ば凍りつき、計時精度があやしい。
フイルムの巻き上げ音と共にカメラがきしむ音がする。
必死に撮影しながらも、暑くてたまらない自分を不思議に感じていた。
やがて光は弱くかすかに消えていった。

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これで今回の旅も終わりかとあきらめかけたが、しぶとくもうワンチャンスを狙ってさらに移動。
ラバージュ湖畔。
この湖は、ここ数日のマイナス30~40度の気温にも結氷せず、もうもうと水蒸気を立ち上らせていた。
車中で待機すること1時間だったか2時間だったか。その間に年が明けていた。
オーロラはすっかり影を潜めていたが、その間に月は昇り、徐々にむせかえるほどの霧にうるんだ世界が照らし出されてきた。
何もかも凍てついた世界だと思っていたこの場所に・・・。
これは一体現実なのだろうか?
フロントガラス越しにも立ち上る水蒸気が浸透してくるようで、フライトが数時間後に迫ったこの旅の終わりに、なんともいえない湿度と熱いものを運んでくる。

この10日間の旅。天候にもめぐまれず、オーロラの活性度も低調だったとはいえ、それでも貴重な時を無駄に過ごしはしなかったか。
突然、名残惜しさに襲われる。

「よし、撮ろう」

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