Northen Lights を追って (4)

名残惜しさで心は重く、外気温にすくんで外に出るのはちょっとした覚悟が必要。
夢幻の世界を目の当たりにして、安易にレンズを向ける気にはなれなかった。
あわてなくても、すぐに消えはしない。
見渡すかぎりに、月光に照らされた雪原、林、湖、霧、星。
静かに、静かに。 潤んでいる。

全部を両立させて写真に収めるのは難しそうに思えた。
乱れた精神状態で対峙することはできない。
実際には、いろいろな気持ちを抑え、あえて機械的にシャッターを切っていくしかなかった。

しばらくして、北の地平線に薄明かりがかかった。
ほとんどあきらめていたラストチャンスか。
名残惜しさのあまり幻覚を見ているのか。
しかし、どうにも期待は高まる。
固唾を飲んでカメラの位置を変える。

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北の空の薄明かりは、弱いながらも徐々に幻覚ではないと確信できる強さになってきた。
「もっと強く」
「もっとこちらへ」
そう思えば思うほど逆に遠ざかってしまうような気持ちになる。
今後の展開は誰にもわからない。
つかみとって引き寄せるわけにはいかない。
叫んで呼び止めることもできない。
この世にはそういうものが多すぎる。
人の心も。

声にならない私の祈りは霧と一緒に上空へと立ち上ってゆく。
やわらかい、やわらかい、光の帯は、少しずつ、少しずつ、こちらへ近づいてくる。
空港へ向かうタイムリミットまであと1時間。
この最後の時になって神様はほほえんだ。
空の光が湖から立ち上る蒸気と混じりあうほどに近づいたころ、シャッターを切り始める。
いろいろな気持ちをおさえて、5秒、10秒、20秒・・・。
フイルムを巻き上げるたびにきしむ音。

時に強く、時に弱く、ひらめいて、さしかかる、
天からふりそそぐ光。
地上から湧き上がる霧。
視野いっぱいに。
音のない世界に、天の声、地の声が重なり合って心に響く。

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どうかこの美しい現実を消し去らないでください。
できることならもっと強く!
心の中で祈りながら空を見上げ、ファインダーを覗き、シャッターを切りつづける。
そうしながらも、あまりの寒さに体は冷え切り手は感覚が無い。
足の指にも感覚がない。
先ほど汗だくになっていたことはすっかり忘れている。
もっと撮りたい! でも手が冷たすぎる。
でもポケットで温めているヒマがあったら撮りたい!
でも、もう力が入らない! でもボタンを押すくらいは出来るはず・・・。
ちょっと暖めてから・・・。
そんな場合じゃない! もう二度と見られないんだから!
この葛藤が続く。 自分との闘い。
手をポケットに入れたり、出したり。
ダウンジャケットの4つのポケットの中に二つづつ入れているカイロはどれも冷え切っている。
とはいってもマイナス40度よりはきっと暖かいはず。
・・・握り締める。
足の指は、足踏みをしてみても全く血の通う気配が無い。
この旅の中でこんなに寒さを感じたことは無かった。すべてにおいてクライマックスとなる。

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